
一向に連載が再開される様子の無い「ハンターハンター」
「イマイチ分かりにくいし,再開されても…」と思っている人のために,継承戦編序盤の展開を分かりやすく復習できる記事を描きたいと思い筆を進めている次第だ.
そこで冨樫義弘が王位継承戦編で何をしようとしているのかを序盤の展開から考察し,イラスト一枚でそれを解説したいと思う.
以前の記事ではちょっと長々と書いてしまったので,今回は分かりやすく伝えることをモットーに描いていきたい.
前の記事で描いたことをかなりかみ砕き,希釈した感じにサクッと解説するので,詳しく知りたい方は前の記事を読んでいただきたい.
前記事:王位継承戦編では「チーム戦」がしたい,根拠はヒソカvsクロロ戦
継承戦編序盤をイラスト一枚で解説(できてますかね?)

一回前の記事で書いたこと言うのもアレなので,イラストで一目で分かるようにして見たがどうだろうか.(このイラストを見ただけで理解できた方は以下読まなくて大丈夫です.くどいだけなんで)
基本ここに描いてある通りなのだが一項目ごとに簡単に説明していきたい.
テーマは「個人と集団」だろう.
冨樫義弘という作家は対比構造を描くのが大好きだ.というよりも本当に面白い作劇を行うには主義や考えの対立を描くのが最も効果的であることを理解しているのだろう.
例えば,ヨークシン編ではクラピカやクロロ,ゾルディック家やパクノダなどを通して「理屈と感情を切り離して考えられる人とそうでない人」の対比構造を描いていた.
今回の王位継承戦編では個人主義と集団主義の対比が描かれていることはほぼ確実だろう.
個人は集団には基本的に勝てない

冨樫が読者に対して,「今回はこういう話がやりたいんです」というのを一番ストレートに,かつ説明として挿入したのがクロロvsヒソカだろう.
個人のチカラは基本的に集団のそれには太刀打ちできないというこの章の基本ルールをまず読者に説明するために,わざわざ継承戦本番が始まる前にこの話を持ってきたのだろう.伏線の意味合いもあったかもしれないが.
クロロがヒソカと闘う前に,「こういうやり方でお前を倒す」という説明を入れたうえで戦いを開始する流れが,
本編が始まる前に,この戦いを通して「この章では個人は集団には勝てません」とルール説明をしようとする冨樫の作劇法とメタ的にリンクしている部分もおもしろい.
※ここでいう集団とは「共闘説」なるものを肯定してるわけではない.あくまで一人でチームとして立ち回れるクロロを指す.詳しくは前記事の最後の方にて
第2王子カミ―ラについても書いているが詳しくは後述.
個人と集団を対比する演出

クロロの超合理的集団戦法によって説明された集団の合理性.
だがその直後の展開で,ヒソカとはまた違う個人主義を持つ人物の活躍が描かれる.クラピカだ.
アホほど時間をかけて描かれた集団主義の考え方に対し,クラピカなりの「それでも一人で~」というアンサーと言わんばかりに挟みこまれた人差し指の鎖の展開.
大好きな対比構造をここぞとばかりに主要キャラの大見せ場で表現して見せる冨樫の手腕に脱帽である.
・ヨークシン編の復習も兼ねた展開
師匠との回想シーンでも触れられている通り,クラピカは集団戦が合理的であることなど100も承知だ.
それでも個人で戦うことを望むのは,前述のヨークシン編のテーマの通りクラピカが理屈と感情を切り離して考えられない人物だからだ.
つまり,この展開はヨークシン編で語られたクラピカとクロロの決定的な違いをもう一度おさらいする狙いがあったと考えられる.だいぶ連載期間空いたからそのための配慮かも.
個人と集団を効果的に描くための設定,人物配置

ここからは繋がっていないバラバラな要素を拾っていくだけだが,
個人,集団の立場を効果的に描いていくために要素や人物配置がこれまでの継承戦序盤の展開にたくさん散りばめていることが分かる.
個人編
きっと冨樫がこのキャラこそ掘り下げたいと思っているだろう人物がマチだ.
34巻の巻末コメントでも語っているように,序盤からから語られた彼女とヒソカの因縁が爆発することは間違いない.
また,相手が集団だろうが個人だろうが,それを陵駕する個のチカラを持ちジョーカー的な立ち位置で描かれようとしているのが第4王子ツェドーリニヒだ.ハンターハンター初の時間を操る能力者だ.
集団編
新しい概念としてジョイント型なるものが出てきた.他の能力者と協力することで真価を発揮する能力者のことだ.これが集団側の物語をこれから面白くしてくれることは間違いない.
特に今現在のクラピカの相棒ビルなんかはそれの最たるものだ.
また,どの登場人物もチームを組みたかっていることが本章の特徴として挙げられる.王子の護衛はもちろん,王子の施設兵,ヤクザ,ひいてはあの旅団員内でもチーム分けがされ,大なり小なり集団で行動することが合理的な状況になっていることは確かなようだ.
個人にも集団にも色がある
二括りに個人と集団といっても,考え方や主義は千差万別だ.
仲間を巻き込みたくないが為に個人を貫くクラピカ,自分が一番強いという自負の基に動くヒソカ,とにかく自分の才能を悪用しようとするツェドーリニヒ,個人としての活躍を渇望する者たちは当たり前ながら行動原理は異なる.
冨樫は集団においても同じことを描こうとしている.一番興味深いのは第2王子カミ―ラと第1王子ベンジャミンの関係だ.
カミ―ラは自らが持つ死後の力を使った念能力で,ベンジャミンの施設兵団に殴り込みを行ったが,歴戦の勇士集まるベンジャミン陣営には成すすべなく返り討ちに合った.
だが,実はカミ―ラも恵まれない境遇の女性たちで構成された施設兵がバックについており,今後の展開ではこの両王子の施設兵団同士の集団VS集団が展開されることがほのめかされている.
「個人では太刀打ちできない巨大な組織でも,こちらも組織で望めば勝敗は分からない」という展開になっているとともに,
男の論理(ベンジャミン軍)vs女の論理(カミ―ラ軍)といった構図にもなっている.
要は何が言いたいかというと,個人vs集団,集団vs集団,個人vs個人のどの構図であったとしても,それぞれの個人,その集団ならではの主義や考え方の対立,強みや弱みを描いていくことが今回冨樫義弘がこの漫画を使って書こうとしている物語なのではないだろうか.
まとめ
最初に分かりやすく説明をすると大見え切った割にはまた長く回りくどい記事になってしまった.
王位継承戦編はどんどんいろいろな要素が増えてくるので,個人と集団の対比の物語ということだけを頭に置いて,細かい情報に一喜一憂せずに読んでいくとちゃんと面白く読めると思う.
また新たな発見があったら記事にしていきたい.